【Review】NTT JAPAN RUGBY LEAGUE ONE 2023-24 第15節 vs.三菱重工相模原ダイナボアーズ

2024.05.03

多彩な攻撃で5トライ奪取。今季3勝目を挙げるも、BPには届かず

リーグワン第15節、9位・三菱重工相模原ダイナボアーズ(相模原DB)との今季2度目の対戦は背水の陣となった。勝ち点を5ポイント確保できなければ10位が確定し、ディビジョン2上位との、ディビジョン1への残留を懸けた入替戦への出場が決まる。9位浮上には、最終節でもブラックラムズ東京(BR東京)が5ポイントを獲得し、その上で相模原DBが敗戦するという結果も必要であり、自分たちでコントロールできない領域にも入り込んでいる望みを追う戦いとなった。

そんなゲームで、BR東京はどこか吹っ切れたかのようなスタートを切る。キックオフ直後、敵陣浅めのラインアウトからのセカンドフェーズ。外へのパスを寸断すべく飛び出してきた相手14番の背後に生まれたギャップをSO中楠一期が抜ける。前方へ転がす。FBアイザック ルーカスが飛び出し足に掛け、後方から再び追った中楠がセーブ。ポイントをつくると、ラインに戻っていた中楠に渡しキックパス。左中間からインゴール右隅を狙ったキックは一度弾んでWTB西川大輔の手に収まりトライ。(前半2分)

さらに、自陣ディフェンスで反則を誘い、NO8サミュエラ ワカヴァカのラインブレイクで敵陣深くに侵入。ラインアウトスチールとスペースへのキックで、ゴール前でのラインアウトを得ると中央を強く突く。そしてCTBロトアヘアアマナキ大洋が、ディフェンスを次々と弾く強烈なキャリーで左中間を貫きトライ(13分)。

SO同士の蹴り合いでじわりと相手陣内に入ると、FBルーカスの右奥へのタッチキックでゴール前へ。さらに相手ボールのスクラムでペナルティを奪ってラインアウトにすると、モールを押し最後は武井が持ち出して右中間にグラウンディング(21分)。3連続トライで19-0とリードを広げた。

自陣での反則が重なり、ラインアウトモールでトライ(26分)を奪われたが、前半の終わりに、SO中楠が敵陣深くに50:22を狙ったキックを蹴ると、これを残そうとした相手にFLアマト ファカタヴァが長い距離を走ってプレッシャーをかける。やむなくタッチに出しBR東京のラインアウトになると、モールを押しファカタヴァがトライ。24-7とリードを広げて前半を終える。

 

後半の入りは、ややフィールドポジションを下げられたがFWが奮起。スクラムやラインアウトでプレッシャーをかけ、BKにいいボールを供給。8分にはスクラムを押し込み、FBルーカスのラインブレイクで敵陣に入ってポイントをつくると、ルーカス、WTB西川、CTBアマナキ大洋とパスをつないで突破。インゴールに達したが、映像でフォワードパスが確認されノートライ。

しかし、ハーフウェイ付近の相手のアタックを我慢強く止めていくと、入ったばかりのLO山本嶺二郎の低いタックルが落球を誘い、WTB栗原がボールをセーブ。すかさず走り込んだCTBアマナキ大洋にパスすると、裏に抜け出す。ステップでディフェンスが伸ばす手をかわしながら走り、最終ラインの選手のタックルで倒されながらも、転がるようにして左隅インゴールへ。絵に描いたようなターンオーバーからのトライで、7-31とリードを広げた(後半17分)。

これでトライはBR東京が5、相模原DBが1とその差は4に。ボーナスポイント(トライ数差で3)の条件を満たした状態で試合は終盤へ。しかし、ハーフウェイ付近で展開され、ディフェンスが前に出て縦に空いたギャップに、14番が外側から仕掛けブレイクを許すと自陣深くまで走られ、これをきっかけに一気に攻めた相模原DBがトライまで持っていき14-31(21分)。数分後、またも14番にアウトサイドのギャップを狙われビッグゲインを許し、懸命に追ってのディフェンスでトライは阻んだが、ペナルティも出てモールからボールを出しての攻撃で5番にトライを許す(28分)。

トライ数の差は2に。このまま勝利してもボーナスポイントは獲得できない状況を迎え、相手に傾いた流れを引き戻したいBR東京は、途中出場のSH南昂伸のラインブレイクとキックで敵陣深くに入りアタックチャンスを得るところまではいったが、トライを獲りきる精度が出せなかった。39分にPGで3点を加えられ31-24でノーサイド。今シーズン3勝目を挙げたものの勝ち点の獲得は4に留まり、ディビジョン1の10位チームとして入替戦への出場が決定した。プレーヤーオブザマッチには、FBアイザック ルーカスが選出された。

“BREAKTHROUGH”は遠くないと思わせてくれたゲーム

スペースへ放ったキックパス。ゴール前での強いキャリー。ラインアウトモール。堅いディフェンスからのターンオーバー。この日BR東京が挙げた5つのトライは実にバリエーション豊かだった。前段にはセットプレーの安定やエリアマネジメント、ペナルティを6に留めた規律意識など、試合によっては課題として挙げられてきた領域の高いスタンダードも見て取れた。前節の敗戦から、チームは見事な修正を果たしたといっていい。

試合後のキャプテン・HO武井は、ボーナスポイントを獲得できなかった悔しさを漂わせたが、一方で確かな手応えを感じているようにも見えた。

「中途半端な気持ちでグラウンドに立っても何もできないので、覚悟を決めてこの試合を戦おうという話もした。それでチームが向かう方向が1つになり、今日グラウンドに立ったときにもすごくエナジーを感じた」

15試合を戦い3勝12敗。厳しい結果ではある。ただ、80×15=1200分という長い時間を、リーグワンディビジョン1というタフな環境において戦い続け、その日のための準備でも力を尽くしてきた事実は揺るぎないものだ。若いチームでもある。この時間の充実がもたらす“収穫”はきっとどのチームよりも大きい。試合ごとに存在感を増すSH南やSO中楠といった選手が目を引くが、きっと彼らだけではない。成長の総量が閾値を超えたときが、“BREAKTHROUGH”が起こるときなのだろう。それが遠くないと思わせてくれるゲームを、BR東京は見せた。

課題として挙がった守勢に回った最後の20分は楽観視すべきではないが、決して相手に飲み込まれていたわけではなかったのではないか。攻め込まれたきっかけはペナルティではなく、優れたランナーの巧みなランだった。ギャップはつくってしまったが、しっかり追い、止めて、もう一度ディフェンスをセットする諦めない姿勢も見せた。最終盤、SH南のブレイクのあとに迎えた敵陣でのチャンスでは少しミスも出たが、この日の試合で得た自信が、修正に手を貸してくれるはずだ。

最終節第16節は、トヨタヴェルブリッツを迎えての秩父宮でのホストゲーム。昨年12月からの半年弱に及ぶタフなシーズンの中で遂げた成長をグラウンドで示し、入替戦への弾みとなるゲームにしなければならない。

「みんなの気持ちが、やっとまとまったように思う」

チームのDNAの象徴の1人、泥臭く身体を張り続け、セットプレーを安定させたLOロトアヘアポヒヴァ大和はそう振り返った。1つとなったBR東京のベストゲームに期待しよう。

監督・選手コメント

ピーター ヒューワットヘッドコーチ

皆さんこんにちは。勝てたことはうれしく、特に前半のパフォーマンスに喜びを感じた。どうやって戦いたいかというゲームプランを持ち、それをしっかりと遂行してくれたことをすごく誇りに思う。後半はそこから離れてしまうこともあったが、試合ではモメンタムが変わることは必ずあると思うので。ただ、前半やれていたことが後半になって続けられなかった部分はあった。もちろん(勝ち点を)5点を獲れていたらベストだったが、そこについて自分たちに一番ダメージ与えていたのは、これまでの14週でやってきたこと。自分たちのプライオリティは、毎週とにかくレベルアップをし続けること。隣にいる彼(HO武井日向)もしっかりゲームをリードし続けてくれた。先週の結果を受け、チームはがっかりしていたと思うが、日向とFL松橋(周平)の2人が1週間よく引っ張ってくれた。それも誇りに思う。よく勝ちました。

—具体的にラグビーの部分でチームとして心がけて遂行できたこととは? もし話せることがあれば

ディテールは話せないが、しっかりプランを立てて、それを守った。そこはチームが成長した部分。やりたい戦い方があって、1週間それに向けて準備する。週末にプレッシャーの中でそれをやり続けられるかというのが自分たちのチャレンジ。今日はそれがよくできていた。

—SO中楠一期は試合ごとに成長を感じさせるプレー

アグリーですね。1年目の10番で、チームを引っ張っていくのは簡単なことではない。特に勝っていないときは余計に難しい。その中でも彼は非常に冷静で、自分の準備もしっかり続けている。エラーもあるが、世界的な選手でもミスはするもの。回りで何が起きていても、しっかりとゲームプランを遂行するということにフォーカスしてもらいたいと思っている。そういう面でいい経験が積めている。

—12番にマッガーンを入れるかたちには、若い彼へのサポートの意味もあったと思う。今日は違うかたちだったが、信頼の表れでもある

そうですね。(中楠は)自分の選手像だったり性格だったりを見せながら、今日はCTB池田(悠希)やナキ(CTBアアマナキ大洋)を隣に置き、キャリーパワーみたいなものを活かせたのはよかった。

HO 武井日向キャプテン

もうヒューイ(ヒューワットHC)の言ったことそのままだと思います。勝てたことは、やっぱりチームとして成長できたところかなと。前半は1人1人1、15 人が全員それぞれの役割を理解して、それを遂行できたことで、あのような結果にできた。後半はそれからちょっとそれた。シンプルなことをやり続けることが大事だったが、それができなかった。そこはレベルを上げる必要がある。ただ、今日の前半のようなプレーができたのは僕たちにとってすごくポジティブなことで、あれを後半もやり続ければ、今日の結果は変わっていたと思う。やるべきことが明確になった。やってきたことが間違っていないと証明できたいい試合だった。

ー先週、厳しい負け方をした。チームはどうやって気持ちを立て直したのか?

プレーヤーだけでもミーティングをして、こういう時こそ1つになろうと話した。あとはもう1回このジャージを着る意味、ブラックラムズ東京の一員として戦う意味について話しあった。泥臭さ、自分たちのDNAを再確認し、これを着たからには、ルーキーもベテランも関係なく、その責任を果たそうという話をした。中途半端な気持ちでグラウンドに立っても何もできないので、覚悟を決めてこの試合を戦おうという話もした。それでチームが向かう方向が1つになり、今日グラウンドに立ったときにもすごくエナジーを感じた。どういうマインドセットで試合まで準備したらいいのか。試合の当日はどういうマインドセットでグラウンドに立てばいいのか。それがわかったと思う。この経験をしっかり来週につなげていきたい。

LO ロトアヘアポヒヴァ大和

まずセットピースを安定させて、いいボールをBKに回そうというプランだった。前半はそれができていい入りになった。後半の頭まではそれができたが、最後の20分くらいはそれができず、相手のペースで試合が終わってしまった。でも、みんなの気持ちがやっとまとまったように思う。1つのやりたいことを、みんなで共有できた。それが成功につながった。

SH 髙橋敏也

やることをクリアにして、前半は自分たちのプレーができたかなと思う。課題は後半最初の入り。もう1回自分たちがゲームをつくろうとしたところで自陣でバタバタしてしまった。そこは僕と(SO中楠)一期の9番、10番でもう少しコントロールしたかった。

—ただ、その時間帯はスコアはできなかったものの、スコアさせることはなかった

ペナルティで自陣に入られ失点しまうかたちにはならず、ディフェンスはチームとしてハードワークできていた。

—SO中楠とのコンビを組んでいて感じていることは?

思いきりもあって、チームが使おうとしているスペースにボールを運んでくれている。よくしゃべってくれるので、コミュニケーションも取れている。安心してボール預けている。

—今日は基本的には蹴ってエリアを獲っていこうとしていた?

前半も後半も、最初のところでもう少し安定してエリアを獲りたかった。今後はそういうバタつきをなくせれば。

―入替戦を戦うことが確定した

まずは来週、しっかり自分たちのパフォーマンスをしてもう一段階レベルアップして、2連勝して自信を持った状態で挑みたい。バラバラにならず、1つになって戦いたい。

WTB 栗原由太

しっかり規律を守れた。自分たちのゲームプランを遂行して、エリアを獲って、ディフェンスして、相手のミスを誘うこともできた。モールも調子よかった。

—後半は少し流れが相手向かう時間も

こちらのミスが重なったり、要所要所でうまく転がらなかったりしたことが理由だと思う。微妙な、どちらに転んでもおかしくない場面をものにしてトライを獲りきれていたら、もっと有利に進められた。後半はそこがターニングポイントになった。

—入替戦に挑むことになる。

おのおのが自分の仕事しっかりする。その先にしかいい結果はない。とにかく相手どうこうではなく、自分たちの仕事にフォーカスする。

 

■試合結果はこちら https://blackrams-tokyo.com/score/score.html?id=393

文:秋山健一郎

写真:川本聖哉

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